大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(レ)267号 判決 1960年2月08日

控訴人 林正雄

控訴人 小野ちよ

控訴人 東京電子工業株式会社

右代表者 竹内元治

右三名訴訟代理人弁護士 中島武雄

被控訴人 水谷ペイント株式会社

右代表者 水谷小太郎

右訴訟代理人弁護士 栗原爾郎

主文

原判決中主文第一項を次のとおり変更する。

被控訴人に対して、東京都大田区西六郷三丁目六十番地所在、室屋番号同町六十番、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場一棟、建坪八十二坪七合五勺のうち、控訴人林は別紙図面表示の(一)の部分三坪の、控訴人小野は別紙図面表示の(二)の部分七坪五合の、

控訴人東京電子工業株式会社は別紙図面表示の(三)の部分二十坪の、

各明渡をせよ。

控訴審の訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

昭和三十一年十月十一日、東京電気商事代表取締役山下倫喜と被控訴人との間で、東京電気商事所有の本件家屋の売買契約が成立したこと(但し代金額の点を除く)、同月十二日、東京電気商事から被控訴人に対する本件家屋の所有権移転の登記がなされたことは、いずれも当事者間に争がない。

控訴人らは、右売買契約が成立した当時においては、本件家屋が東京電気商事の全財産であつたから、その譲渡については、商法第二百四十五条第一項第一号によつて、東京電気商事の株主総会の特別決議を経ることが必要であるにもかかわらず、右の手続を経ていないから右売買契約は無効であると主張するが、会社の全財産であつても、単に営業用財産のみを譲渡することは、商法第二百四十五条第一項第一号によつて株主総会の特別決議を必要とする場合に当らないと解するのが相当であるから、控訴人らの右主張は採用できない。また控訴人らは、東京商事がその全財産である本件家屋を被控訴人に譲渡することは、右会社の目的たる事業の継続を不可能とするものであるから無効であると主張するので考えてみるに、営利を目的とする会社がその重要な財産を無償もしくは甚しく不当に僅少な対価しか得ないで譲渡する行為は、会社の目的の範囲をこえるものとして無効と解すべきであるが、無償もしくは甚しく不当に僅少な対価によるものでない限り、その譲渡行為が客観的、抽象的にみても、なお会社の目的たる事業の遂行を不可能にするものである等の特段の事情がない以上、会社の重要な財産であるからといつて、その譲渡行為をもつて会社の目的の範囲をこえるもので無効であるということはできないと解するのが相当である。ところで原審における証人山下倫喜、同吉田国治の各証言によると、昭和三十一年十月当時、本件家屋が東京電気商事の重要な財産であつたことは認められるけれども、前記の昭和三十一年十月十一日に成立した本件家屋の売買契約において定められた本件家屋の売買価格が甚しく不当に廉価であつたことをうかがうに足りる証拠はなく、かえつて真正にできたことに争がない甲第三、五号証および原審における証人山下倫喜、同今井清、同吉田国治の各証言を合わせて考えると、昭和三十一年十月十一日に東京電気商事の代表取締役山下と被控訴人との間で成立した売買契約において、本件家屋およびこれに附属する家屋二棟の合計延百三十二坪の売買代金を少くとも三百十五万円と定めたこと、右売買価格が必しも不当に廉価であつたとはいえないものであることを認めることができる。また真正にできたことに争がない乙第二号証によると東京電気商事は電気機械器具、医療用具の製造、販売等を目的とする株式会社であることが認められるのであるが、右のような事業を行うことを目的とする会社にとつて、本件家屋のような工場建物を譲渡することが客観的、抽象的にみて会社の事業の遂行を不可能とする行為であるとは到底いえない。したがつて控訴人らの前記の主張も採用できない。

してみると、被控訴人は、昭和三十一年十月十一日東京電気商事の代表取締役山下との間に結んだ売買契約によつて、本件家屋の所有権を取得したといわなければならない。

本件家屋のうち、控訴人林が別紙図面表示の(一)の部分三坪を、控訴人小野が別紙図面表示の(二)の部分七坪五合を、控訴人東京電子工業が別紙図面表示の(三)の部分二十坪を、それぞれ占有していることは当事者間に争がない。

控訴人らは、東京電気商事の承諾を得て右の占有部分を占有していると主張するのみで、被控訴人の所有に属する本件家屋の一部である右占有部分を占有するについて、被控訴人に対抗できる権限を有していることについて何も主張がない以上、控訴人らは被控訴人に対して前記の占有部分をそれぞれ明渡す義務があるといわなければならない。

したがつて、控訴人らに対して、それぞれ控訴人らの占有している前記の部分の明渡を求める被控訴人の請求は、いずれも理由があり、原判決主文第一項は、控訴人らに対して、それぞれ前記の各占有部分の明渡を命じた趣旨であると解されるから正当であり、民事訴訟法第三百八十四条によつて本件控訴はいずれも棄却すべきものであるが、原判決主張第一項は、控訴人らに対して明渡を命ずる部分の表示がやや不正確であるから、正確に表示するために原判決主文第一項を変更することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山要 裁判官 西沢潔 寺井忠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例